仕事が終わって、クタクタになった帰り道。
電車の中でふうっと深い息を吐きながら、無意識にスマホを開く。
ぼんやりタイムラインを眺めていると、どこかで頑張る同業者のキラキラした言葉たちが、ふいに目に飛び込んでくる。

「もうレセプト点検を一人で任された」
「医療事務の新しい資格試験に向けて勉強開始」
「今日の受付業務、ノーミスで完璧にこなせた」

そんな投稿を目にして、どっと疲れが増してしまった夜は、誰にだってある。

「入職した時期は同じくらいなのに、あの人はあんなに進んでいる」
「それに比べて、今日も初歩的なミスをして先輩に迷惑をかけてしまった」

そんなふうに、自分の歩幅がひどく遅く感じてしまう。
焦りや落ち込みが波のように押し寄せてきて、泣きたくなる日もある。
毎日こんなに必死にメモを取って、休憩時間も削って覚えようとしているのに、自分だけがぽつんと取り残されているような、あの苦しくて押し潰されそうな感覚。

でも、どうか安心してほしい。
画面の向こう側の誰かと自分を比べる必要は、本当に、まったくないから。


走るコースも、使う筋肉も、みんな違う

医療事務という仕事は、働く環境によって求められるスキルも、覚える順番もまったく違う。

たとえば、1日に何百人、何千人と患者さんが訪れる大きな総合病院。
ここでは業務が細かく分かれているから、最初の数ヶ月はひたすら初診受付だけを繰り返したり、特定の科のクラーク業務だけを徹底的に叩き込まれたりする。
広く浅くではなく、一つの歯車として深く正確に動くことが求められる世界。
レセプト業務なんて、1年以上経たないと触らせてもらえないことも珍しくない。

一方で、地域に根ざした小さなクリニック。
ここでは受付からお会計、レセプト入力、時には院内の清掃や患者さんの介助まで、あらゆる業務を同時進行で覚える必要がある。
入職1ヶ月で「もうお会計もカルテ入力もやっている」という状況が当たり前に起こる。

これをスポーツに例えるなら、片方は短距離走の練習をしていて、もう片方は水泳の練習をしているようなもの。
使っている筋肉も、進むコースも、目指しているゴールすらまったく違う。
水泳の練習をしているのに、陸上競技のタイムを見て落ち込んでいるような状態だ。

環境が違えば、成長のスピードも、任される業務の順番も違って当然だから、焦らなくていい。


SNSの言葉は、誰かの「ハイライト」でしかない

それに、SNSに流れてくる言葉は、その人の「一番いいところ」を切り取ったハイライトでしかない。

綺麗に色分けされた勉強ノートの写真をアップしているあの人も、もしかしたらバックヤードで悔し涙を流したばかりかもしれない。
「レセプト一人立ち」と報告しているあの人も、昨日は先輩から厳しい指導を受けて深く落ち込んでいたかもしれない。
見えないところで、パソコンの画面を見つめながらため息をついている夜だって、きっとあるはず。

誰もが、見せたい部分だけを切り取って発信している。
泥臭くて、情けなくて、失敗ばかりの毎日は、わざわざネットの海に流さないだけ。

だから、誰かの「完璧に見える切り取り」と、自分の「失敗だらけのリアルな日常」を比べて、自分を痛めつけるのはもうおしまいにしたい。

比べることで一番悲しいのは、大切な自分のエネルギーが削られてしまうこと。
ただでさえ、毎日新しい知識を頭に詰め込んで、気を張って患者さんと接して、心も体もギリギリまで頑張っているはず。
そんなに頑張っている自分を、他人のSNSを見てさらに追い詰めるなんて、あまりにも可哀想だ。


見つめるのは、自分の足元だけでいい

気にするべきは、画面の向こうの誰かの進捗じゃない。
昨日から今日にかけての、自分自身の小さな変化。

昨日まで暗号にしか見えなかったカルテの略語が、今日はなんとなく読めた。
保険証の確認で、迷わずに正しい項目を見つけられた。
電話が鳴ったとき、昨日よりも少しだけ落ち着いて「お電話ありがとうございます」と言えた。
不安そうにしている患者さんに、自分から声をかけて笑顔を引き出せた。
先輩に質問するとき「何が分からないか」を順序立てて整理して伝えられるようになった。

そんな、周りから見ればちっぽけで、SNSで「いいね」がたくさんつくようなことではないかもしれない、小さな小さな「できた」。
これこそが、現場で長く、そして優しく働き続けるための本物の力になっていく。

情報があふれていて、嫌でも他人の活躍が目に入ってしまう時代。
だからこそ、意識して自分の足元だけをゆっくり見て歩く時間が必要になる。

焦らなくて大丈夫。
カメのような歩みでも、昨日より今日、ほんの少しでも前に進んでいるなら、それで十分。

誰かと比べるのをやめて、自分の小さな成長を一つずつ、大切に拾い集めていく。
その地道で優しい一歩一歩は、数ヶ月後、数年後の自分を、必ず強く支えてくれるから。

#医療事務 #SNS疲れ #マインドセット