10年前の、4月の話をさせてください。

私が医療事務として入職した初日の夜。
病院の駐車場で車を止めたまま、
ハンドルを握って、しばらく動けなかったことがあります。

別に、誰に何を言われたわけじゃない。
ただ、1日中、先輩の
「それ、さっき言ったよね」
っていう一言が頭の中でぐるぐる鳴っていて、
家のドアを開ける気力が湧いてこなかったんです。

エンジンを切る音だけが妙に大きく聞こえて、
「あ、明日もこれをやるのか」って、
その事実だけで胸の奥がずんと重たくなっていました。

あのとき誰かに、言ってほしかった言葉があります。

「最初の1ヶ月は、できなくていいよ」

「頑張れ」でも、「大丈夫」でもなく。
ただ、できなくていい、って言ってほしかった。

この記事は、あの頃の自分と同じ夜を過ごしている人に向けて書いています。
今年の4月、医療事務として入職したばかりのあなたに。

100人面接して、ひとつだけ確信したこと

私はそこから10年、総合病院で医療事務を続けました。

副総括責任者として、50人を超えるスタッフのマネジメントも任され、採用担当も兼務して、
約3年間で100人以上の面接をしました。

その中で、たくさんの新人を見てきました。
続いた子も、途中で辞めていった子も。

続けてきて、ひとつだけ確信していることがあります。

最初の1ヶ月に「できる新人」なんて、ひとりもいません。

みんな、覚えることが多すぎて、
わからない単語が飛び交って、
先輩の機嫌を気にして、胸のあたりが重い。

続く子と辞めていく子の差は、才能でも、資格でもありませんでした。
「折れない工夫を、最初の1ヶ月で持てたかどうか」
たった、それだけです。

今日は、その工夫を5つだけ、こっそりお渡しします。

① わからない言葉は、「その場でメモだけ」にする

医療事務って、初日から知らない言葉がシャワーみたいに降ってきますよね。

算定、査定、返戻、包括、点数表、公費、労災、自賠責……。
全部、初日にちゃんと理解しようとしないでください。

コツは、「その場で意味を聞く」のではなく「メモだけする」。
そして、夕方の空き時間にまとめて3つだけ、先輩に聞きに行く。

ここで大事なのは、メモを取る道具。
胸ポケットに入る小さめのメモ帳を1冊、初日から必ず用意してください。

病院は個人情報の塊なので、基本的にスマホは持ち込めません。
(私のところも、ロッカーに預けてからフロアに入るルールでした)
だから、最初の1ヶ月はアナログなメモ帳が相棒になります。

1ページに1単語、左に単語・右に夕方聞きたいことを書くだけでOK。
ボールペン1本と、それだけ。

先輩に怒られるパターンの9割は、忙しいタイミングで立て続けに質問することです。
これは先輩が意地悪なんじゃなくて、本当に手が回らないだけ。

「まとめて夕方」にするだけで、先輩との関係がびっくりするほど穏やかになります。

② 先輩3人の「口ぐせ」を観察して、話し方だけ真似る

これは100人面接してきた私が、続いた子全員がやっていたと確信してる習慣です。

入職して1週間、目の前の業務に必死になる前に、
先輩を3人だけ選んで「話し方」を観察してみてください。

  • 電話に出るときの第一声

  • 患者さんに何か伝えるときの最初の一言

  • 同僚に声をかけるときのトーン

これをそっと真似るだけで、「この子、馴染むの早いな」って思われます。

不思議なんですが、話し方が似てくると、人間関係が一気に楽になるんです。

③ 月末月初の「レセ日」を、手帳に赤ペンで書く

医療事務の最大の山場は、月末月初のレセプト業務です。

そこに向けて体と心を温存しないと、他の日の小さな失敗が積み重なって
「私、この仕事向いてないかも」になっていきます。

だから、入職して最初にやってほしいのは、紙の手帳やノートに
10日締めまでの日程を、赤ペンで書いておくこと

繰り返しになりますが、病院内はスマホ持ち込み禁止のところがほとんどなので、
「スマホのカレンダーに入れておけばいい」は、実はあんまり通用しません。
ロッカーの中のスマホは、フロアで困ってるあなたを助けてくれないんです。

だから、手帳は薄くて小さいもので十分。
月間ブロックのページに、

  • 月末の20日、25日、月初の1日〜10日までを赤で塗る

  • レセ提出の10日に◎

  • 返戻が返ってくるタイミングに△
    これくらい大雑把でも効果があります。

「あ、もうすぐ忙しい日なんだ」と先に知っているだけで、
心の持ちようが全然ちがいます。

先輩のピリつきも、レセが終われば落ち着くって知っておくと、
必要以上に自分を責めなくて済みます。

④ 退勤前に"今日できた1つ"を、メモ帳の裏ページに1行だけ書く

これは10年前の私が一番やればよかった、と今でも思っていることです。

新人の頃って、退勤時の頭の中は
「今日できなかったこと」ばっかりなんですよね。

「あの電話、取れなかった」
「あの書類、まだ終わってない」
「先輩にまた『さっき言った』って言われた」

そればかり数えていました。

でも、1日を「今日できた1つ」で終わらせるだけで、
翌朝起きたときの重さが、ほんの少し軽くなります。

やり方はシンプルです。
①で使っているメモ帳の一番うしろのページを「できた1つ」専用にする。
表紙側は業務の質問、裏表紙側は今日の自分の記録。
この1冊で完結させるのがコツです。

たとえば「今日、はじめて保険証のコピーを1人で取れた」でも十分。
たった1行、日付とひと言。それだけでいい。

3ヶ月後、あのメモ帳を見返したとき、
「あ、私、こんなところから始まったんだな」って思える瞬間が、きっと来ます。

⑤ 家では、仕事の話を「1分で切る」

最後は、家に帰ってからのルール。

しんどい時期って、家族やパートナーに仕事の愚痴を話し続けちゃうんですよね。
わかります、私もそうでした。

でも、吐き出せば吐き出すほど、夜の自分が病院に引きずられます

だから、家に帰ったらまず白湯を飲んで、
仕事の話は1分で切る。これだけ決めておく。

「1分だけ聞いて」と家族に伝えておくのも、すごく効きます。

家の時間は、仕事の続きじゃない。ちゃんと切ってあげてください。

だから、今のあなたに伝えたいこと

10年前、駐車場でハンドルを握ったまま動けなかった新人の私に、
もし今、声をかけられるなら、こう言います。

「最初の1ヶ月、できなくていいよ」

100人以上面接して、50人以上の新人を見てきて、確信しています。

折れていくのは、決まって真面目で、がんばる子です。
不器用だからじゃない。
周りに迷惑をかけたくない、優しい子だから、抱え込んで壊れていくんです。

だから、どうか、抱え込まないでください。
今日あげた5つのことを、1個でも2個でもいいから、やってみてください。

小さなメモ帳1冊と、ボールペン1本。
それだけで、最初の1ヶ月は十分に乗り越えられます。

今年の4月、朝出勤するのがしんどい人に、少しでも届いたらうれしいです。

あなたの最初の1ヶ月を、ちゃんと応援しています。