同じことを伝えているのに、なぜか私だけクレームになる
これ、入職して半年くらいの頃にずっと思っていたことです。
隣の先輩と、まったく同じ内容を患者さんに伝えている。待ち時間の案内も、問診票のお願いも、会計の説明も。言っていることは同じ。
なのに、先輩の受付はスムーズに回っていて、私の受付だけなぜか患者さんの表情が曇る。たまにクレームになる。
「私、何か失礼なこと言ったかな」
毎日そう思って、退勤後にその日の会話を頭の中で何度も再生していました。
でも、どこが悪いのかがわからない。
だって、悪意なんて一切ない。むしろ一生懸命やっている。丁寧に話しているつもり。患者さんのためを思って言っている。
それなのに伝わらない。
あのときの「自分が何を間違っているのかすらわからない」という感覚は、正直かなりしんどかったです。
答えは「何を言うか」じゃなくて「どう言うか」だった
転機は、ある日の先輩の受付を横で聞いていたときでした。
待ち時間が30分以上になっている患者さんへの対応です。
私だったらこう言っていました。
「もう少しお待ちください」
先輩はこう言いました。
「お待たせしており申し訳ございません。あと10分ほどでご案内できる見込みです」
言っていることは、ほぼ同じ。「もうちょっと待ってね」ということ。
でも患者さんの反応がまるで違った。
私の「もう少し」には、患者さんは不安そうな顔をしていた。先輩の「あと10分」には、患者さんが「わかりました」と穏やかにうなずいていた。
そのとき初めて気づいたんです。
患者さんがイラッとするのは「待たされること」じゃなくて、「いつまで待つかわからないこと」だった。
「もう少し」は、私にとっては10分のつもりでも、患者さんには30分にも1時間にも感じられる。「あと10分」と数字を出すだけで、同じ待ち時間でも不安の量がまったく違う。
問題は、伝えている内容じゃなかった。伝え方の「ほんの数文字の差」だったんです。
そこから私は、先輩の言葉をノートに書き写して、自分の言い方と何が違うのかを一つひとつ比べていきました。
「無意識の突き放し」に気づいてほしい
書き比べてみて気づいたのは、私が使っていた言葉には 「無意識の突き放し」 がたくさん含まれていたということでした。
命令形。
否定形。
曖昧な言い回し。
専門用語。
どれも悪意はゼロ。でも患者さんの立場で読み返すと、たしかに「冷たい」「不安」「突き放された」と感じるものばかりだった。
たとえば「問診票を書いてください」。
これ、医療事務をやっていると一日に何十回も言う定型文です。何の悪気もない。
でも患者さんにとっては、体調が悪くてやっと病院に来て、不安な気持ちで座っているところに、いきなり「書いてください」と言われる。命令されている感覚になる人がいても、おかしくないんですよね。
「お手数ですが、問診票にご記入をお願いしてもよろしいでしょうか」
こう変えるだけで、患者さんに「選択権がある」という感覚が生まれる。たった数文字の違いなのに、受け取る印象がまったく違う。
これに気づいてから、私の受付からクレームが目に見えて減りました。
大げさじゃなく、言い方を変えただけ。やっていることは前と同じです。
医療接遇ポジティブ言い換え10選
ここからは、私が10年かけて先輩や研修から学び、実際に現場で使ってきた言い換えフレーズを10個紹介します。
どれも「特別なスキル」ではなく、今の言葉を少し変えるだけのものです。
❶ 来院理由を聞くとき
✕「今日はどうされましたか?」
◎ 「本日はどのような症状でお困りでしょうか?」
「どうされましたか?」は一見丁寧ですが、ぶっきらぼうに聞こえることがあります。
「お困りでしょうか?」に変えると、「この人は助けてくれる人だ」という印象になる。たった数文字の差なのに、患者さんの構えがふっと緩むのがわかります。
❷ 待ち時間が長いとき
✕「もう少しお待ちください」
◎ 「お待たせしており申し訳ございません。あと○分ほどでご案内できる見込みです」
さっき書いた通り、これが私の原点です。
「もう少し」は人によって感覚がまったく違う。
具体的な数字を出すだけで、「放置されている」という不安が消える。正確な時間がわからなくても、「○分くらいの見込みです」と伝えるだけで患者さんの表情が変わります。
❸ 問診票をお願いするとき
✕「問診票を書いてください」
◎ 「お手数ですが、問診票にご記入をお願いしてもよろしいでしょうか」
「書いてください」は命令形。お願いしているつもりでも、受け取る側には「やれ」と聞こえることがある。
「お願いしてもよろしいでしょうか」にすることで、患者さんに選択権がある感覚が生まれます。体調が悪いときに命令されるのと、お願いされるのでは、受け取る側の気持ちがまるで違うんです。
❹ 検査・処置のとき
✕「ちょっと検査しますね」
◎ 「これから○○の検査を行います。数分で終わりますが、ご不安な点はありませんか?」
「ちょっと」は便利な言葉ですが、曖昧すぎて不安を増やします。
患者さんが本当に知りたいのは 「何をされるのか」「どのくらいかかるのか」「痛いのか」 の3つ。これを先に伝えて、最後に「不安はありませんか?」と聞くだけで、患者さんの緊張がかなりほぐれます。
❺ 専門用語で説明してしまうとき
✕「経過観察でいきます」
◎ 「すぐにお薬は使わず、しばらく様子をみて変化がないか一緒に確認していきましょう」
「経過観察」は医療者にとっては日常語です。でも患者さんには「何もしてくれないの?」「放置されるの?」と聞こえることがある。
ポイントは 「一緒に」 の3文字。この言葉を入れるだけで、「見放された」が「寄り添ってくれている」に変わります。
私自身、これを意識するようになってから、患者さんから「先生は何もしてくれないんですか?」という不安の声が受付に来ることが減りました。
❻ 予約が取れないとき
✕「その時間は無理です」
◎ 「そのお時間は空きがなく、○時か○時でしたらご案内が可能です」
「無理です」で終わると、突き放された印象になります。
代替案をセットで伝えることで、「断られた」ではなく「選べた」に変わる。患者さんにとっては「NO」を言われるのがつらいのではなく、「NOのあとに何もない」のがつらいんですよね。
❼ クレームの初期対応
✕「それはルールなので」
◎ 「不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。こちらのルールについて、理由も含めてご説明させていただけますか」
正直に言います。「ルールなので」は、私も何度か使ってしまったことがあります。
忙しいとき、余裕がないとき、つい出てしまう。でもこの一言が、クレームを一番炎上させる。
大事なのは 「まず受容→それから理由の説明」 という順番です。
「あなたの気持ちはわかります」を先に伝えるだけで、同じルールの説明でも患者さんの聞く姿勢がまったく違います。
❽ 患者さんを呼ぶとき
✕「○○さん、次です!」
◎ 「○○様、お待たせいたしました。診察室○番へご案内いたします」
「次です!」は、忙しい現場だとつい言ってしまいがち。でもこれ、患者さんには流れ作業感が伝わります。
名前+ねぎらい+行き先 の3点を伝えるだけで、「大切にされている」という印象に変わる。たった5秒の違いですが、患者さんの満足度に直結するところです。
❾ 帰り際のひと言
✕「はい、以上です」
◎ 「本日の診察は以上です。ご不明な点がなければ、どうぞお大事になさってください」
「以上です」だけだと、事務的に聞こえます。
でも実は、帰り際のひと言が一番記憶に残る。心理学でいう「ピーク・エンドの法則」で、人は体験の最後の印象で全体の印象を決めるそうです。
最後に ねぎらいと気遣い を一言足すだけで、「あの病院、感じよかったな」が生まれる。逆に言えば、ここを手を抜くと、それまでの丁寧な対応が全部台無しになることもあります。
❿ デリケートなことを聞くとき
✕「理由を教えてください」
◎ 「差し支えなければ、背景をお聞かせいただけますか?」
「教えてください」はストレートすぎて、場面によっては詰問に聞こえます。
「差し支えなければ」 のクッション言葉を入れることで、患者さんに「答えない選択肢」を渡す。これが大事なんです。
特に既往歴や家族の病歴など、話しにくいことを聞くときは、このクッション言葉があるかないかで、患者さんが心を開いてくれるかどうかが変わります。
なぜ「言い換え」でクレームが減るのか
ここまで読んで、「結局、丁寧に話せばいいってこと?」と思った方もいるかもしれません。
でも、ちょっと違います。
たとえば「動かないでください」という言葉。
これ、脳科学では 「シロクマ効果」 と呼ばれる現象が起きます。「シロクマのことを考えないでください」と言われると、逆にシロクマのことを考えてしまう。同じように、「動かないで」と言われると、脳は「動く」を意識してしまう。
だから「そのままの姿勢でいてくださると助かります」のように、やってほしいことを肯定形で伝える ほうが、実は正確に伝わるんです。
もう一つ。「違います、そうじゃなくて」と否定から入ると、患者さんの心に 心理的反発 が起きます。
人は自分の意見を否定されると、内容の正しさに関係なく、感情的に受け入れにくくなる。だから「そのように感じられたのですね。実は〜」と、一度受容してから説明する ほうが、結果的に伝わる。これは心理学で「Yes, and法」と呼ばれている技法です。
言い換えは「優しさ」じゃなくて 「技術」 なんです。
患者さんを守りながら、自分の心も守る方法。
2026年の医療現場では、カスタマーハラスメント対策が法制化レベルで重視されています。相手を刺激せずにこちらの意図を伝える「アサーティブ・コミュニケーション」は、もはや「できたらいいな」ではなく、現場の安全を守るための必須スキルになりつつあります。
「ひと言変えるだけ」が、なぜこんなに難しいのか
ここまで10個の言い換えを紹介してきましたが、正直に言います。
わかっていても、忙しいときには元の言い方に戻ってしまうことがあります。
月末のレセプト期間。受付に患者さんが並んでいる。電話が鳴り止まない。隣のスタッフは昼休憩に入っている。
そんなときに「お手数ですが、問診票にご記入をお願いしてもよろしいでしょうか」なんて、丁寧に言っている余裕がない。つい「書いてください」が出てしまう。
これ、自分が未熟だからじゃないんですよね。
余裕がないときに言葉が雑になるのは、人間として当たり前のことです。
だから大事なのは、10個全部を完璧にやることじゃなくて、「今日はこの1個だけ意識しよう」と決めること だと思っています。
今日は「もう少し」を「あと○分」に変えてみよう。明日は「書いてください」を「お願いしてもよろしいでしょうか」にしてみよう。
1日1個でいい。それを積み重ねていくうちに、気づいたら自然に出てくるようになる。
少なくとも私は、そうやって少しずつ変わっていきました。
あの日の私に教えてあげたいこと
入職して半年、先輩と同じことを言っているのに自分だけクレームになる理由がわからなくて、毎日退勤後に会話を再生していたあの頃の私に、今ならこう言ってあげたいです。
あなたが悪いんじゃないよ。
伝え方を「ほんの数文字」変えるだけで、患者さんの反応は変わるし、自分の心も楽になるよ。
それは「優しさ」の問題じゃなくて「技術」の問題だから、練習すれば誰でもできるようになるよ。
もし今、同じように「自分の何が悪いのかわからない」と悩んでいる方がいたら。
この記事の10個のうち、どれか1つだけでいいので、明日の受付で試してみてください。
たぶん、患者さんの反応が少しだけ変わります。
そしてその「少しだけ」が、あなたの一日をほんの少し楽にしてくれるはずです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「これ使える!」「うちの現場でもあるある」と感じてもらえたら、スキ♡を押してもらえると嬉しいです。
「こういう場面の言い換えも知りたい!」があれば、ぜひコメントで教えてください。次の記事で取り上げます。
同じ受付に立つ仲間のリクエストが、誰かの現場を少しだけ楽にするかもしれないから。
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