先日、SNSでこんな悲痛な声を見かけました。
「6時間待たされた後の、念のための検尿と採血。その間にできたのでは?」
この言葉を見た瞬間、現役の医療事務として胸がギュッと締め付けられる思い。
体調が悪い中、硬い椅子で6時間も耐え抜いた患者さんの姿。
やっと名前を呼ばれて「さあ、診察だ」と思った矢先に、冷酷に告げられる検査の指示。
「待っている間にできたのでは?」という疑問は、完全に正論。 患者側の視点に立てば、これほど心が折れる瞬間は他に存在しない事実。
なぜ「診察室に入ってから」検査が決まるのか
患者さんの貴重な時間を奪っているのは事実。 しかし、この「待合室の悲劇」が全国の病院で起きてしまう背景には、医療現場特有のルールが存在します。
あらかじめ検査の予約が入っている方を除き、初診や急な症状で来院された場合。 最大の理由は「勝手に検査をしてはいけない」という絶対的な決まり。
受付のスタッフや看護師が、自分の判断で「先に紙コップを渡しておこう」「先に血を抜いておこう」と進めることは、法律(医師法など)で固く禁じられています。
検査をするには、必ず「医師が直接お話を聞いて、検査をやりなさいと指示を出す」という手順が必要。
つまり、医師が診察室でカルテを見るまでは、誰も勝手に検査を進められないのが病院の現実。
だからこそ「6時間待って、やっと先生と話をしてから、ようやく検査が決まる」という非効率な事態が多発。
予約時間通りに呼ばれない「裏の事情」
さらに患者さんの不満を加速させるのが、「予約していたのに待たされる」という問題。
「10時の予約なのに、もう11時を過ぎている」 受付で叱責を受けることは、医療事務にとって日常茶飯事。
しかし、ここにも現場のコントロールを超えた事情が存在します。
自分より前の患者さんの診察が長引いている(重大な病気の告知や、複雑な症状の説明など)
担当医師が急患対応や緊急手術に呼ばれ、外来の診察がストップしている
病院は命を扱う場所。 目の前の「緊急性の高い命」を優先するため、どうしても予約時間が後ろ倒しになってしまうのが避けられない現実。
「ルールの壁」を前に、受付ができる先回り術
「ルールだから」「急患が出たから」と諦めて、患者さんをただ待たせるのは三流の仕事。 ここで突破口を開くのが、病院の受付にいる医療事務の役割。
事務スタッフに「検査の要否」を判断する権限は一切ありません。 しかし、「医師が、診察の前に『先に検査しておいて』と指示を出しやすい環境」を受付の時点で作るサポートは可能。
明日から現場で実践できる、具体的な3つのアクション。
1. 問診票の「深掘り」を極限まで上げる
ただ「お腹が痛い」と書かれた紙をそのまま回すのはNG。 受付の時点で「いつから痛いですか?」「吐き気や下痢はありますか?」「最後に食事をしたのは何時ですか?」まで聞き出すスキル。 情報が詳しければ詳しいほど、医師はカルテを見た瞬間に状況を把握し、診察前に検査の指示を出しやすくなる仕組み。
2. 目立つ症状を「正確に」看護師へ共有する
事務スタッフが「検尿になりそうです」と判断して伝えるのは越権行為。 しかし、「問診で『排尿時に強い痛みがある』『血尿が出た』とおっしゃっています」という事実だけを、裏で素早く看護師へ共有することは可能。 その情報を受けた看護師が医師へ確認を取り、結果として診察前に尿を採れる確率が上昇。
3. 不安を和らげる「事前の声かけ」
待ち時間が発生している事実から目を背けず、声かけ一つで疲労感を軽減。
「本日は急患対応により、大変お待たせして申し訳ございません。診察の内容によっては、その後に検査が入る可能性もございます。お辛い時はすぐにお声がけくださいね」
この一言があるだけで、「もっと早く言ってくれなかったのか」という絶望感を和らげることが可能。
【重要】明日から動く前に、絶対に守るべき鉄則
ここまで、待ち時間を削るための工夫を語りました。
しかし、医療事務が明日からいきなり、自分の判断だけでこの動きを始めるのは非常に危険。
なぜなら、病院やクリニックによって「運用」や「暗黙のルール」が全く異なるから。
「患者さんの待ち時間を減らしたい」という思いがあっても、運用を急に変えてしまえば周りが困惑し、職場の人間関係に亀裂が入る恐れが多大にあります。
そもそも「問診は看護師の仕事だから、事務は受付だけして」という明確な分業体制。
「忙しい時に裏で共有してこないで」と嫌がる看護師さん。
現場のやり方は、施設ごとに完全にバラバラ。
まずは直属の上司や、仲の良い看護師さんに「患者さんの待ち時間を減らすために、受付でここまで問診を聞いても良いですか?」と相談するのが、最も無難で確実な選択。
施設ごとのルールに合わせ、柔軟に対応していくコミュニケーションこそが、職場での自分の身を守る最大の武器。
患者の6時間を無駄にしないために
医療事務は、カルテを作ってお会計をするだけの事務作業員ではありません。 病院という戦場で、医師の判断を助け、患者さんの負担を少しでも減らすための「司令塔」。
私たちが1分だけ先回りして動く。 たったそれだけの工夫で、患者さんの6時間は大きく変わるはず。
SNSの悔しい声は、現場のやり方を見直す大きなきっかけ。
お互いに笑顔で「お大事に」と言い合えるように。 患者さんの時間を1分でも守るための努力を、明日からまた一つずつ積み重ねていきます。
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