「後輩には手取り足取り、丁寧に優しく教えなさい」
私たちが先輩から何度も言われてきた、この常識。
あなたも、後輩のために自分の業務を後回しにしてまで、一生懸命に教えていませんか?
でも、今日だけはハッキリ言わせてください。
現場の真実は【完全に逆】でした。
良かれと思って先回りして、ミスを未然に防いであげる。
これ実は、後輩の成長を一番邪魔している、ものすごく残酷な行為だったんです。
毎日残業してまで教えているのに、メモを取っているはずなのに、なぜか何度も同じミスを繰り返す後輩。
それにイライラして、すり減っていく30代のあなたへ。
かつて、パソコンの画面を叩き割りそうになるほど後輩にイラついていた私が、ある「恐ろしい事実」に気づき、劇的に心が軽くなった話をさせてください。
■ 「優しい先輩」という名の自己満足
私がその事実に気づいたのは、毎月のあの胃が痛くなる「レセプト点検」の時期でした。
医療事務にとって、レセプトの返戻(へんれい)や査定は絶対に避けたいもの。
だから私は、後輩が作ったカルテや入力内容を、後輩が気づかないうちに全部チェックして、こっそり直していたんです。
「ここ間違ってるよ」と指摘して、直させて、また確認する。
そのやり取りの時間がもったいなかったし、何より「後輩のミスでクリニックに迷惑をかけたくない」という思いがありました。
でも、結果はどうだったか。
何ヶ月経っても、後輩は同じ算定ミスを繰り返すんです。
「この前も教えたよね?」「なんでメモしてるのに覚えないの?」
表では「お疲れ様ー!」なんて笑いながら、パソコンを見つめる私の心の中は舌打ちの連続でした。
そんなある休日のこと。
家で4歳の娘と出かけようとしていた時の出来事です。
娘が玄関で、マジックテープの靴を一生懸命履こうとしていました。
でも、左右が逆だったり、うまくテープが留まらなかったりして、全然進まない。
時計を見た私は「あー、もう時間ないから!」と、娘の手から靴を奪い取り、サッと履かせてしまったんです。
その時、ハッとしました。
「あ、今の私、職場の私と全く同じだ」って。
■ 「失敗を奪う」という大罪
娘は、自分で靴を履く練習をしたかったはずです。
間違えて、転びそうになって、そこで初めて「あ、左右が逆だと歩きにくいんだ」と学ぶ。
それなのに私は、自分の「早く出かけたい」という都合だけで、娘から【失敗して学ぶチャンス】を奪い取ってしまった。
職場でも全く同じことをしていました。
後輩がミスをする前に、私が手を出して完璧なレセプトに仕上げてしまう。
それは「後輩のため」なんかじゃありません。
私が「指導する時間を省きたい」「安心したい」だけの、単なる自己満足だったんです。
失敗の痛みを味わわないと、人は絶対に学ばない。
「あ、間違えちゃった!どうしよう!」という冷や汗をかいて初めて、脳は「次は気をつけよう」とインプットするんです。
私はその一番大切なプロセスを、優しさという仮面を被って奪い続けていました。
■ 「待つ」という、一番しんどい仕事
それからは、育成のスタイルを180度変えました。
ぐっと堪えて、徹底的に「見守る」ようにしたんです。
致命的な医療事故やクレームに繋がるミスは当然防ぎますが、それ以外のミスはあえて「一度泳がせる」ことにしました。
そして、間違えたまま提出してきた時に初めて、
「このカルテ、どこか1箇所だけおかしいところがあるんだけど、わかる?」
と問いかけるようにしたんです。
最初はもう、めちゃくちゃ時間がかかります。
後輩は「えっ…?」と固まるし、私の業務はストップするし、喉まで出かかった「ここが違うでしょ!」という言葉を必死に飲み込む毎日でした。
イライラして、奥歯を噛み締めすぎて顎が痛くなったこともあります。
でも、数週間経った頃から、明らかな変化が現れました。
後輩が「先輩、ここって〇〇で合ってますか?」と、自分で根拠を持って質問してくるようになったんです。
自分で間違いに気づき、自分で修正できる力が、確実についていました。
■ 後輩育成は、未来への投資
「丁寧に教える」ことと「先回りして答えを与える」ことは違います。
後輩育成は、子育てと全く一緒です。
すぐにできるようにはならないし、大人の思い通りには絶対に動きません。
相手は、医療事務という世界に迷い込んだ「生まれたての赤ちゃん」なんです。
もし今、あなたが後輩の指導で疲れ果てているなら。
相手を変えようとするのではなく、ほんの少しだけあなたの「期待値」を下げてみてください。
そして、転ぶ前に手を差し伸べるのをやめて、転んだ後に「なぜ転んだのか」を一緒に考える時間を作ってみてください。
「待つ」ことは、教えることの何倍もエネルギーを使います。
でもそのエネルギーは、確実に「未来のあなたの時間を増やす投資」になります。
明日から、ほんの少しだけ「待つ」勇気を持ってみませんか?
あなたのその我慢が、必ず後輩の大きな一歩に繋がるはずです。